但馬杜氏とは

歴史や特徴、「人となり」などを紹介!

但馬杜氏とは、日本四大杜氏に数えられる、酒造りの技能集団です。

但馬杜氏の拠点である兵庫県北部の冬季は雪深く、農業に適さないため、古くから、出稼ぎで多くの人々が全国で酒造りに携わっていました。
そのなかで、但馬地域の人々の慎重で誠実、忍耐強い気質などが、酒造りの知識や技術などの積み重ねや磨き上げにつながり、現在の但馬杜氏の礎をつくったと言われています。

このような但馬杜氏が造る酒は「格別」です。

本記事では、酒造りの技能集団「但馬杜氏」のことを知っていただき、但馬杜氏や造る酒との出会いにつなげたい!と考えています。

個人的には、「杜氏さんって、酒造りの情報を、LINEでやりとりしているの!?」などの意外性に驚かされる3.但馬杜氏組合とは」の記事が、おすすめです。

ぜひ、興味のある内容から、読んでみてください。

1.但馬杜氏の歴史

但馬杜氏は、特に、江戸時代以降の酒造りの伝統を支えてきました。
さかのぼって、見てみましょう。

【江戸時代】但馬杜氏は、既に他地域でも大活躍!

天保8年(1837)2月、大阪で起こった大塩平八郎の乱に関連して、大和(奈良県)でも暴動が起き、浪士・吉村寅次郎は同士を率いて大和郡山城を攻撃したとの記録があります。
そこに、小代庄城山(兵庫県香美町小代区;但馬地域)出身の杜氏・藤村某が登場します。藤村は、ともに働く蔵人だけでなく、周辺にいた杜氏や蔵人をも引き連れて、城の守備に当たったそうです。

このことから垣間見えるのは、当時から既に数多くの但馬杜氏が大和地方で酒造りを担っていたことです。その代表格である藤村は周辺社会からも認められ、危機に際しては城主の信頼も厚かったことが分かります。
但馬杜氏の気質や、酒造り知識や技術などは、江戸時代から脈々と、今なお受け継がれているのです。

【明治時代】杜氏組合、設立!

明治44(1911)年10月1日、「美方郡醸酒業者組合」が設立されました。
これが、後に「但馬杜氏組合」となります。

【昭和時代】但馬杜氏、最高峰!杜氏組合、名称変更!

昭和26(1951)年、自醸酒研究会の審査評において「但馬杜氏の造る酒は全国の最高峰であり、今や但馬杜氏の中には全国の最高技術体得した人があることを証明している」と言われたとされています。

昭和31(1956)年、「美方郡醸酒業者組合」の名称に関する議論があり、「美方」・「但馬」のいずれを名乗るかで意見が分かれた、という記録が残っています。
議論の結果、「美方郡杜氏組合」に変更となりましたが、その翌年、改めての議論の末、「但馬杜氏組合」として出発することになりました。

【平成時代】但馬杜氏100年の伝統と、後世への約束!

平成元(1989)年、但馬杜氏の数は240名にのぼり、同時期における全国の杜氏2,040名の1割強を占める、一大勢力となっていました。

平成4(1992)年の記録においても、全国の杜氏1,754名のうち、但馬杜氏が約1割を占めていたことが確認できています。

しかしながら、杜氏の数は、但馬でも全国でも減少し、後継者不足や高齢化などの問題も聞こえてくるようになります。

このような流れのなか、平成23(2011)年、但馬杜氏組合は「但馬杜氏組合規約」を改正し、(組合員の資格)第7条における居住区域の限定を解除することで、組合員の多様性を確保することに成功しました。
詳しくは、「3.但馬杜氏組合とはを、ご参照ください。

平成24(2012)年7月26日、兵庫県新温泉町にある湯村温泉・薬師湯前に建立された「但馬杜氏記念碑」の除幕式が行われました。
この記念碑は、平成23(2011)年に同組合発足以来100年を迎えた但馬杜氏の功績をしのぶとともに、「技と心を後世に伝えていく」ことを目的に、同組合の記念碑建立委員会が準備を進めてきたものです。

【令和時代】但馬杜氏を、地域の宝に!

令和の時代に入って間もなく、世界は「新型コロナウイルス感染症」に脅かされるようになります。不要不急の外出自粛要請などの影響で、人々は「外で」「集まって」「酒を飲む」ことが難しい時期を過ごしました。

令和5(2023)年5月8日、新型コロナウイルス感染症が「5類感染症」になりました。これにより、「法律に基づき行政が様々な要請・関与をしていく仕組みから、個人の選択を尊重し、国民の皆様の自主的な取組をベースとした対応に変わり」ました。

令和5(2023)年7月22日、新温泉町観光振興協議会は但馬杜氏組合などと協力し、「荒湯天狗まつり」の復活に合わせて但馬杜氏をまつりに登用。試飲イベントやステージトークの開催により、但馬杜氏が「地域の宝」として活躍する場を創出しました。
この取組は、令和6(2024)年7月の「荒湯天狗まつり」においても継続されました。

令和6(2024)年4月、「但馬杜氏自醸酒研究会」の前夜祭及び研褒賞授与式への一部一般参加の受入を、前年度からの構想に基づき実現しました。
この取組は、令和7(2025)年4月も引き続き、実施されました。

但馬杜氏や造る酒との距離がググッと縮まると、ファンやリピーターが増えるわけですね。

では次に、ファンやリピーターが愛してやまない、但馬杜氏の特徴を見てみましょう。

2.但馬杜氏の特徴

但馬杜氏の特徴は、酒造りの技能集団としての魅力が基盤にあることです。
但馬杜氏一人一人が魅力的なことは当然ながら、束になって発揮される包容力には、いつも居心地よさを感じてしまいます。

【気質】慎重で誠実、忍耐強い

但馬地域の人々の気質として、慎重で誠実、忍耐強いと言われることが多いです。この気質が、厳しい環境での酒造りの世界で重宝され、知識や技術の積み重ねや磨き上げに役立っていると考えられます。
また、特に冬季に雪深い地域においては、日本の東北地域の人々と気質が近いとも言われ、辛抱強く内気で優柔不断な面も持っているようです。そのため、しっかり受け止め、じっと堪え、優しく返す、という身のこなしが、包容力を感じさせるのかもしれません。

【歴史】老舗が多い

但馬地域での酒造りの歴史は古く、江戸時代に創業した老舗が多いことも特徴です。地域に根ざした酒造りに向き合ってきた酒蔵では、昔から愛されている普通酒への注力は当然のこと、地域の人々を楽しませる新しい酒造りへの挑戦にも真剣です。
老舗が多く、地域に根ざした酒蔵において、最高製造責任者を務める但馬杜氏の包容力は、そのようなところにも見え隠れします。

【仲間】但馬杜氏組合がある

酒造りの技能集団としての魅力、その基盤を支えているのが「但馬杜氏組合」でしょう。
次で詳しく述べますが、“ 酒造技術の研究改善” に先立って、“ 組合員相互の親睦”を目的に掲げる但馬杜氏組合では、組合員同士のコミュニケーションにも特徴が見られています。
情報交換にもとづく酒造りの技術改善はもとより、法令法規や安全衛生に対する理解や意識の醸成、厳しい冬季の酒造りにおける精神的な支え合いなど、さまざまな効果がみられています。
このようなコミュニケーションこそが、但馬杜氏の造る酒を「格別」にしているのですね。

3.但馬杜氏組合とは

「但馬杜氏組合」とは、酒造りの技能集団「但馬杜氏」が所属する組合です。60年程前に400人いた杜氏が、現在は28名にまで減少したといいます。そのためもあり、また、以前から寄せられていた要望にも応えるかたちで、但馬杜氏組合員が順守する但馬杜氏組合規約を平成23年に改正して「(組合員の資格)第7条」おける居住区域の限定を解除しています。

(組合員の資格)
第 7条 本組合の組合員は本組合区域内に居住し、酒造業に従事する現役杜氏及び一般従業員その他を以って構成する。
2  前項に定める区域以外に居住している者であっても、次の要件を満たした者については、本組合の組合員としての資格を得ることができる。(後略)

結果、組合員に多様性が生まれました。詳しくは、「4.但馬杜氏の紹介」を、ご参照ください。
せっかくですので、但馬杜氏組合規約の「(目的)第5条」も、見てみましょう。

(目的)
第 5条 本組合は組合員相互の親睦をはかり、共同一致してその人格の向上及び酒造技術の研究改善につとめ、業務上の弊害矯正し信用を保持し互いの福利増進に資し、地域の発展に寄与することを以って目的とする。

この(目的)にある、”組合員相互の親睦”をはかるために活躍しているのが、LINEです。
「杜氏さんって、酒造りの情報を、LINEでやりとりしているの!?」

但馬杜氏組合の事務局長・鐘谷雄三さんによると、「組合員同士の情報交換には、主に『但馬杜氏組合』のLINE グループを使っている。年配の人が多い時代はLINE グループを作らなかったが、若い人が増えてきたことと、私自身にとっての利便性を考えて、連絡網の代わりに作った」そうです。
それが、「組合員同士で情報交換をするうち、いろんな情報を投稿する人が現れて。いまでは、他地域の鑑評会に参加した人がその様子を報告したり、繁忙期の疲労困憊を励まし合ったり、さまざま」とのことです。

また、副組合長・池成均さんは、「(冬季の)酒造りの現場には厳しい雰囲気が立ち込めていて、まさか話しかけられる状況ではない。それが、LINEグループでは酒造りに関する情報交換でも和気あいあい、助けられることも多い」と言います。
「以前は、法令法規の理解に時間がかかっていた。そもそも、但馬杜氏と聞いても漠然とした印象しかなかった。でも、組合員になり、相川さんのおかげで、法令法規の話も頭に入ってきやすくなった。但馬杜氏としての誇りも感じており、酒造りで地域に還元したい」との想いが強まったそうです。

池成さんの話のなかで登場した「相川さん」とは、月桂冠の社員杜氏でありながら、令和5年に「京都府の現代の名工(京都府優秀技能者表彰)」に認定された、「1級酒造技能士」であり理学博士の、相川元庸さんのこと。
このように、指定区域以外にある酒蔵の但馬杜氏組合員であっても、「但馬杜氏組合」での立ち位置を確立しています。

そして、「但馬杜氏組合」の話を始めると、なぜだか、但馬杜氏の個別のエピソードを語りたくなってしまうのですから、ふしぎです。
「顔が見える」酒造りの技能集団、とでも言いましょうか。まるで、酒の味にも、但馬杜氏の「人となり」が、にじみ出ているようです。

ですから、ここで紹介しきれなかった皆さまも含め、但馬杜氏のことを、もっと、知っていただきたい!

皆さまにも、「但馬杜氏には、他に、どんな人がいるの?」と、少しでも関心を持っていただけたら、うれしいです。

4.但馬杜氏の紹介

ここでは、但馬杜氏組合に所属する但馬杜氏をご紹介します。
但馬杜氏組合の指定区域内(美方郡一円)及び外それぞれで、以下の28名が活躍中です。

◆美方郡内:6名・・・香美町(2名)、新温泉町(4名)
◆美方郡外:22名・・・兵庫県(11名)、京都府(3名)、大阪府・滋賀県・奈良県・鳥取県・岡山県・広島県(各2名)、和歌山県・香川県(各1名)、計10府県

オンラインショップのある酒蔵も多数ありますので、気になる酒蔵や商品がありましたら、ぜひ、お気軽にお試しいただければと思います。

※準備中※

5.但馬杜氏の酒蔵見学

但馬杜氏組合に所属する但馬杜氏の酒蔵のうち、「酒蔵見学」などを受け入れているのは、以下の通りです。
酒蔵見学に当たっては、基本的な注意事項を順守のうえ、訪問するようにしてくださいね。

酒蔵見学の基本的な注意事項

1.見学前の食事:特に、納豆など菌を含む食品は控えましょう
2.香りを抑えた身だしなみ:香りの強い香水や整髪料、柔軟剤の使用は避けましょう
3.清潔で機能的な服装:繊維などが飛散しない清潔で動きやすい服装や、滑らない靴を
4.持ち物の準備:試飲の合間に摂る水分や、撮影時の落下を防止する装備など
5.その他:酒蔵からの指示に従い、時間や規則を厳守しましょう

見学できる但馬杜氏の酒蔵紹介

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往訪可能な但馬杜氏の酒蔵紹介

なお、酒蔵見学には対応していないものの、ショップやギャラリーなどで、酒の購入や文化体験などができる酒蔵もあります。お近くまでお越しの際には、立ち寄りを検討してみてはいかがでしょうか。
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